院長ブログ

顎関節症の病理変化<問診>

埼玉県八潮市のつくばエクスプレス八潮駅前にある歯医者さん、八潮駅前通り歯科医院の院長金田です。

顎関節異常を訴え来院する患者は少なくなく、特に最近社会生活の複雑化による精神的ストレスや、歯科治療の普及による咬合の変化などとの関連性と相まって増加の傾向にあります。

前回に続き顎関節症についてお話しします。

顎関節症は、病理学的には急性外傷性関節炎、慢性外傷性関節異常、変形性関節症などに相当するものである。

急性外傷性顎関節炎の場合は、関節包、靱帯や円板、あるいは関節軟骨部に断裂、亀裂、剥離や穿孔などの単純性外傷性変化を示すものといわれている。円板などは組織修復能が低いため、穿孔が長く残存したり、また損傷組織がその治癒過程で周辺組織と癒着を起こしたりして、顎関節症の変化に移行するものもある。

慢性外傷性顎関節異常と変形性顎関節症の病理組織変化は本質的に同一な物で、関節突起に退行性変化が起こり、被蓋軟骨の細胞の乱れや核濃縮が現われ、軟骨基質の軟化により線維化や亀裂などを生ずる。更に進むと、関節頭表面より軟骨層が剥離し、表面が粗雑になったり、摩耗や変形を起こす。軟骨層の周縁には辺縁隆起や硬貨、あるいは癒着などの変化を起こしてくるものといわれている。

慢性外傷性顎関節異常は、顎関節症の大部分を占めるものである。

以上の変化を起こしてくる場合の刺激と、生体の反応性の相関関係について整理をしてみると、次の3つの場合に分けられる。

(1)加わる刺激に比し、それに対する生体の反応性が低い場合(老齢、栄養不良など)

(2)刺激に比し、生体の反応性が旺盛な場合

(3)刺激と生体の反応性がほぼ均衡の保たれている場合

まず(1)では一般に関係組織の委縮が起こり、(2)では肥大肥厚が起こり、(3)では特に著明な器質変化を起こすことなく、機能障害のみのものが多いと考えられる。

均衡は保たれていても刺激が強く、それに対する生体の反応性も強い位置にあるものは、刺激の作用期間が長ければ、しばしば肥大、肥厚が引き起こされ、両者弱い位置にあるものはしばしば委縮が引き起こされる。

顎関節症と診断されたものについて、的確な治療が施されるためには、病因、病態などを加味し詳細な整理が必要であるが、臨床症状のみを同じくする類似疾患の鑑別を行わなければならない。

1)問診

主訴のほかに、特に初発症状、その動機、経過などについて注意深く詳しく問診を行う。

(1)既往歴

外傷、他部関節異常、特殊性疾患、隣接疾患(耳鼻疾患、1ヶ月以内の扁桃腺炎罹患)、その他全身疾患の罹患の有無や口腔領域の手術、歯牙治療を受けたことがあるかないかなどについて十分に問診する。外傷時は顎の打撲を受ける事が多いので、外傷の既往のある患者はその時の状況を詳しく聴取記載する。

他部間接にも異常があった場合は、急性関節リウマチや慢性関節リウマチの疑いも考えられる。

急性関節リウマチ(リウマチ熱)は、一般に心障害を主体とし、発熱を伴い、関節症状を示すものであるが、成人のものは発症に先立ち1ヶ月以内に扁桃腺炎に罹患している事が多く、また心臓の犯される事が少なく、多発性関節炎の症状を示すものが多いと一般にいわれているので、口腔外科ではまれなものであるが、一応考慮したほうがよい。

慢性関節リウマチの場合は扁桃腺炎の罹患やその他の前駆症のないのが普通で、思春期または更年期の女性に多く、第二、三指の近位指節関節、または中手指関節が最初に犯され、腫張と疼痛が徐々に対称的に現われ、起床時に手の硬ばりがあるものである。

慢性関節リウマチ患者の顎関節の罹患度は、約5.1%とも8.7%ともいわれている。

以上の点を参考にし疑いのあるものは、血清学的諸検査やX線精査の結果、専門医とともに診断する。単に多発の関節罹患があるというだけで関節リウマチと考えるべきでない。

口腔領域の疾患、歯科疾患などがあれば、その処置に際し、顎関節に外傷が加わったことも考えられ、またそれらの充填、補綴処置に関連して、顎関節に内在性外傷性に作用している事も考えられる。

まれではあるが血行性にリン菌性、結核性などの顎関節炎が生ずる可能性もある。また中耳などの隣接疾患が顎関節にまで波及し後遺することもあるので、これらの既往のある場合には、十分に留意して、X線、関節腔穿刺液の細菌学的検査や血液、血清学的検査、組織診断を行うようにする。

(2)現病歴

本症の多くは原因が慢性に作用したり、発症の素地があるところに種々の動機が”引き金”となり発症するものである。

初発時は多くの場合、症状が軽微で自然消失したり、再発を繰り返して悪化する場合が多いので初発時期、初発部位、初発時の症状や動機と思われる事項ならびにその経過などについて、十分に問診する必要がある。

初発時期

初発より来院までの期間の長いものや、その間に何度も症状を繰り返しているようなものには、内在性外傷性因子などの主たる原因が除去されないまま長く存在し、顎関節部の器質変化がかなり進行しているものが多いと考えられる。来院までの期間の短いのもには、外来性外傷性原因によるものが多い傾向にある。

初発部位、初発症状ならびに経過

初発部位や初発症状と来院時の主訴とはかなりくい違いのある場合が少なくない。これは悪循環を繰り返し、他症状を惹起し合併してくるためである。

雑音を初発症状とする症例の約50%は疼痛を、そして約20~30%は開口障害を続発して来院し、残りの約20~30%の症例は雑音のまま経過している。

疼痛を初発症状とする症例では、大半が疼痛のまま経過し来院しているようである。開口障害を初発症状とする症例では、大半が雑音や疼痛に移行する傾向にある。したがって疼痛を訴えるものが多くそれに比べ雑音を主訴とするものが少ない。初発部位、初発症状ならびにその経過は診断および治療上大切である。

お読みいただきありがとうございました。

次回は問診後のさまざまな症状についてお話します。