院長ブログ

顎関節症の病理変化と診断

埼玉県八潮市のつくばエクスプレス八潮駅前にある歯医者さん、八潮駅前通り歯科医院の院長金田です。

前回に引き続き顎関節症についてお話したいと思います。

 

現症として

まず全身的に慢性疾患や他関節の異常の有無について精査する。局所的に顔貌の対称性、顎の形態異常の有無、顎の運動異常の有無、顎関節雑音の性状、疼痛の種類や部位、ならびに口腔内疾患、咬合状態などについても精査を進める。これら現症は経過観察上にも重要であるので、それぞれ詳細を記録する事が大切である。

「顔貌」

顎関節症では、顔貌の非対称はほとんどみられない。顔貌の非対称性が認められる場合は、片側性の先天性や後天性の発育異常の存在や炎症、外傷、腫瘍などが考えられる。

 

「顎の運動状態の精査」

顎運動に関しては、開口範囲、側方運動範囲と顎運動の軌道について精査し記録する。

 

1開口運動範囲

通常最大開口時の上下顎中切歯切端間距離をノギスで測定し記録する。顎関節症患者では疼痛やひっかかり感による開口障害を伴う場合が多く、開口範囲が把握しにくい。また同時に疼痛を伴うひっかかり感を伴うかも明記しておく。平均約4.5cm前後が正常と考えられる。開口制限を有する症例は、

a疼痛によるもの

b以前雑音のみがあって現在開口制限の発言に伴い雑音の消失したもの、あるいは一度ひっかかり感のため開口制限があるが、さらに努力して開口すると開口制限が軽微となるもの

c強制開口にも反応しない、かなり強固な開口制限を有するもの

の3つに大別される。本症は、前にも述べたように、種々の原因により、また種々の経路を経て発症するものであるので、単純には言えないが、まずア群のものでは筋の機能変化によるもの、イにおいては円板の器質変化、ウにおいてはおもに関節包の線維性癒着など、靱帯や筋(特に茎状靱帯や咬筋)の器質的変化などがそれぞれの症例で重要なウエイトを占めていると考えられる。

 

2側方運動の範囲

側方運動範囲の測定は、軽く閉口させ、下顎を左右に運動させ、上顎の正中線に対する下顎の側方運動範囲を測定し記録する。

普通、患側への側方運動はそれほど障害されないが、健康側関節を軸として患側関節を回転運動させるところの健康側への側方運動は制限されるものである。正常は約1cm前後である。

 

3顎運動の軌道の精査

顎の運動軌道も閉口時の上下顎正中線のブレを目安とすると把握しやすい。顎関節症患者では、垂直軌道をとるもの、片側に偏位するもの、不規則な軌道をとるものがある。

顎関節頭の動きは、患者に開閉口および側方運動を命じ、側方皮膚上よりの触診と、外耳孔に手指を挿入し、軽く外耳道前壁に圧接し精査する方法で把握しうる。

疼痛や雑音があっても開口障害や軌道の偏位がみられないか、あっても軽微なものは、顎関節異常の程度も軽微である。偏位は見られないが慢性に開口障害の存在する場合は、両側性に顎関節部組織の器質以上の存在する可能性がある。まれに茎状靱帯や咬筋前縁部に器質変化のある場合もある。顎運動の最初よりその軌道に偏位のみられるものは、片側性の筋肉の機能異常や関節部における円板の癒着や関節包や靱帯などの器質変化によると考えられる。顎運動の後半に不規則な偏位を示し、同時に雑音を発するような症例では、円板の肥厚など器質変化の存在する場合が多い。

 

雑音の精査

顎関節雑音の精査は、その性状、雑音の生じる時期、顎運動状態との関係などについて行う。

患者に静かに開閉口運動するように命じ、触診や聴診器による聴診で行う。雑音の大きい症例では、離れいていても可聴しうる場合もあるが、詳細を把握するにはやはり触診や聴診が必要である。

雑音には「グジュグジュ」「ジャリジャリ」といったような連続濁音と、「ポキン」とか「カクン」といったような音などがある。

前者は多くの場合顎運動中を通じて存在し、関節骨構成部の変化すなわち軟骨層の菲薄化や変性、あるいは円板の穿孔、菲薄化や癒着などの存在している症例に多い。後者はたいてい開口約2.5cm前後のあたりで生じ、そのような症例では同時に顎運動の軌道の不規則な偏位を伴い、二段性の開口を示す場合が多い。円板の肥厚や円板の動きの強度の制限があると考えられる。

軽微な雑音で顎関節深部の疼痛やだるさ、あるいは違和感の存在する場合は、外側翼突筋の機能異常のあることも考えられる。

 

疼痛の精査

疼痛には顎関節部の疼痛と咀嚼筋部の疼痛があるので、疼痛の存在部位を先ず精査し、次いで運動に伴う一過性疼痛か、圧痛か、持続性疼痛か、自発痛かの別も十分確かめる。運動通の存在部位と圧痛の存在部位はたいてい一致するので、圧痛部の触診は特に入念に行うようにする。

顎関節部の疼痛の精査には、患者に開口させ、関節頭の前方移動に伴い、耳孔前方のやや凹陥する部を圧迫して疼痛の有無を調べる。顎関節部の疼痛の大部分はこの部の疼痛である。また開閉口運動時に、関節頭外側部を軽く圧迫し疼痛の有無も調べるようにする。

筋肉部の疼痛の精査の場合、側頭筋や咬筋などは外部より比較的容易に行える。内側翼突筋部を精査するには口腔内より示指を内側翼突筋の下顎付着部に送り、反対側の手で外方より上内方に軽く押し上げるようにして、患者には口で大きく息をさせ、口腔底筋や舌の緊張を除去せしめ、徐々に上内方の筋腹のほうへと圧痛の有無を調べる。

本症患者では内側翼突筋に疼痛を有するものが比較的多いが、これらの患者の大部分はこの筋が下顎骨の内側にあるため、その疼痛の存在部位を正確に表現しえず、咬筋部や下顎枝後方部、あるいは下顎角部の疼痛として訴えるので、注意しなければならない。

 

外側翼突筋の精査は、患者に軽く閉口を命じ上顎結節と下顎枝の間に指示を送り、関節頭の方向に圧迫し、圧痛の有無を調べる。

精査の結果、圧痛が耳孔前方の凹陥部に存在する場合は、この部が血管や神経に富み、また顎運動に伴う円板の前方移動時に最も組織の伸展される部でもあるため、関節頭の後方移動や過度の運動などによるその部の過圧迫や過伸展のための損傷や円板の器質変化、あるいは外側翼突筋の機能異常が考えられる。

顎関節頭を中心にやや広く圧痛の存在する場合はおもに関節包に存在する外傷性顎関節炎か、慢性関節リウマチであることが多い。また、一部の咀嚼筋部に圧痛が存在し、またその部に運動痛があれば、その筋肉の異常がほぼ確実となる。

持続する瀰慢性の疼痛が筋肉部に有る場合は、精神緊張、循環障害、代謝障害、あるいは自己受容機構の変化などによる異常筋拘縮による場合が多い。ときに

耳部を中心に後頭部、頸部や肩部に疼痛が広がり、胸鎖乳突筋にまで圧痛の存在する症例もある。

著明な自発痛を有する症例もまれにみられるが、このような場合は急性外傷性関節炎や感染性関節炎を考えなければならない。ときには進行した慢性関節リウマチや骨関節症のこともあるので注意を要する。

 

咬合状態の精査

不正咬合(過蓋咬合、前歯部開咬など)、咬合高径の不正、咬耗、歯牙位置異常、

異常萌出、歯牙欠損、歯牙疾患、智歯周囲炎、不適合補綴物などの有無について精査を行う。次いで開口、側方、前方の運動時の早期接触や咬合干渉など、咬合異常について、カーボン・ペーパーやパラフィン・ワックスを用い患者の口腔内で精査する。

また患者に軽く咬みしめ運動を行わせ、術者の手指を各歯牙に軽く圧接し、それぞれの歯牙にかかわる力を知ることも非常に参考になる。また同時に印象採得を行って模型を作製し、咬合器に装着し、口腔外でチェックバイトで咬合させ、咬合異常の診断を行う。なお咬合の精査には補綴専門家との協同が必要である。

 

3)臨床検査

(1)X線検査

本性の診断には、X線検査による他疾患との鑑別ならびに顎関節骨構成部の変化や顎関節頭の位置異常の精査は必要である。

しかし正確に行うには完全な規格撮影が必要であり、また形態的に複雑な部位であるので、ほかの関節部に比較して明確なX線像を得る事が困難であるのでいくつかの工夫が必要であり、多くの撮影法や規格撮影法の試みがなされ研究が進められている。

X線的に精査した結果では、関節部の骨破壊、骨増生、変形や辺縁不規則などの変化が明確に認められたものは全体の約11%にすぎなかった。関節頭に骨棘形成、骨硬化像、小空洞の形成や骨端の不規則像が認められる場合は、慢性関節リウマチや骨関節症であることが多い。

円板や関節窩にかかわる刺激は、その原因が何であっても関節頭を介し加わるので、関節頭の形態についても観察する必要がある。

<顎関節造影撮影法>

単純X線撮影では円板ならびに関節包や骨膜の変化を知ることはできない。これらの変化を知るには、顎関節造影が必要である。

造影には水溶性の造影剤を上関節腔と下関節腔にそれぞれ日を変えて注入し、直ちに開閉口時のX線撮影を行う。

注射法は、まず注射部を十分に消毒したのち、患者に軽く開口を命じ、関節頭、関節結節、関節窩の位置をよく触診し確認したうえで、上関節腔へ注入する場合は耳前部よりやや下方より関節窩前壁を目標に、また下関節腔の場合は耳前部やや上方より顎関節頭を目標に針を2cm進め、患者が関節部に軽度の緊張感を訴えるまで注入する。平均上関節腔で約0.8~1.0ml、下関節腔で約0.5~0.7mlである。

これらの造影の結果、陰影像の部分的欠損や、輪郭の不規則性が認められれば、その部の関節包内層の滑膜や円板の欠損や肥厚、癒着などが存在するものと考えられる。Grant-Lanting法では内外側の関節包の変化をより良く知ることができ、Schuller法では円板と関節頭あるいは関節窩との関係など上下的な関係ならびに前後適の変化をより良くすることができる。

 

血液、血清学的検査

血液、血清学的検査は、顎関節炎、特に特殊性関節炎や急性・慢性関節リウマチの鑑別に必要である。同時に顎関節症患者の内因的素質を知る上にも大切である。

①血沈:強い炎症疾患や血漿蛋白に変化をきたす疾患では促進するので、血沈の促進があれば感染性関節炎や慢性関節リウマチの疑いが生じる。慢性関節リウマチの活動期では100mm以上になるが、通常は50mm前後のことが多い。

②血球:強い炎症のある場合には、貧血と多核白血球の増加が現われるので、そのような場合も感染性関節炎の疑いをもたなければならない。

③ASLO:抗ストレプトリジンO価の上昇があれば、最近に連鎖状球菌の感染のあった証拠となり、急性関節リウマチの疑いなども考慮しなければならない。

④CRP:C反応蛋白が証明されれば、血沈などと同様炎症変化の存在を示すものであり、炎症の活動性の判定に役立つものである。陽性の場合は前者などと同様の関節炎が考えられる。

⑤血漿蛋白:血清蛋白、フィブリンの定量や電気泳動および免疫電気泳動法による検査も必要である。慢性関節リウマチでは血清蛋白が増加する傾向にある。これはグロブリンの増加によるものでA/G比は減少する。フィブリンの著しい増加のある場合には、急性リウマチの疑いが濃厚となる。電気泳動でα2、β、γグロブリンの増加を免疫電動泳動でα2グロブリン、免疫グロブリンであるβ2A、β2M及びγグロブリンの増加があれば、慢性関節リウマチの存在を考えなければならない。

⑥Waaler-Rose反応およびRA-Test:これは慢性関節リウマチの患者血清中にかなり特異的に存在するリウマトイド因子を証明するもので、Waaler-Rose値28dils.u.以上であったり、RA-Testが陽性の場合は慢性リウマチの疑いが強い。

以上これらの結果は経過とともに変動するものであり、諸検査は1回限りでなく経過を追って適宜行う必要がある。また必要に応じ関節液の生化学的、細胞学的、細菌学的検査も行うようにする。

諸検査結果や臨床症状が合致せず、診断の付かない場合は病理組織検査を行うことも必要である。

 

筋電活動の検査

下顎の運動に関与する筋肉の筋電活動を筋電計を用いて把握する事も、診断ならびに経過観察、予後判定の上で必要である。普通咬筋および側頭筋について釣針電極あるいは表面電極にて測定する。

顎関節症の場合は、咀嚼運動時、その周期、間隔や持続の規則性が失われ、咬筋や側頭筋に異常筋活動が認められることが多い。筋電活動を精査することにより、早期に本症の発見が可能な場合もある。

以上、既往歴、現病歴、現症や諸検査の結果より臨床的に顎関節症と診断されたものをさらに主たる原因別、病状・病態別に整理し治療を進めてゆく参考にする。

 

まず次の三者のどれに相当するかを決定する。

・顎関節炎:急性外傷性顎関節炎や特殊性炎を含む感染性顎関節など

・全身系統疾患と関連して発症しているもの:急性、慢性関節リウマチなどが含まれる。この群では全身系統疾患の一部分症状として直接に顎関節に症状を現しているものと、全身系統疾患が素地となり、それに局所的な原因が加わって発症しているものとがある。

・顎関節症:一時的に顎関節症と診断されるものの大部分を占めるもので、狭義の顎関節症ともいえるものである。主に局所的な原因により症状も顎関節部に限局する非炎症性のものである。

次いでその狭義の顎関節症について、主な原因と考えられるものにより次のように整理する。

・筋原性のもの

・咬合咬交の異常や変化によるもの(内在性/外在性外傷性)

・過剰運動性によるもの

と同時に機能障害や器質的変化の面より、次のように整理する。

・機能障害のみのもの

・器質変化を伴うもの(器質変化の主体が顎関節頭や関節窩によるもの/主体が円板にあるもの)

以上整理して、その主な原因、病態に対する処置に主眼を置いた治療を進めてゆく。

 

長くなりましたがお読み頂きありがとうございました。