埼玉県八潮市の歯医者さん、八潮駅前通り歯科医院の飯野正義です。今までも、皆様の診療をさせていただいていましたが、9年間勤務していた日本大学歯学部付属歯科病院を退職し、この4月から木、金以外の診療を担当させていただくことになりました。皆様と診療でお会いする機会も増えると思いますのでよろしくお願いいたします。
大学では、「保存修復学講座」というむし歯や歯を残すことを専門にしたところに所属して、大学病院での診療と新しいむし歯の治療方法や、歯を治すための材料についての研究を行っていました。若手のころから勉強をして、診療の経験を積んだいまでも、力及ばず歯がゆく思っていることがあります。それは、患者さんの治療の割合で一度治療を行ったところの再治療が多いことなのです。むし歯を繰り返すうちに大きくなり最終的に抜歯に至ってしまう、それを「リピートレストレーションサイクル」と言うそうです。俗っぽく言うのならば「むし歯の呪い」といったところでしょうか。
くり返されるむし歯の呪い
世の中には、むし歯にならずに一生を終える人もいます。むし歯のなりやすさを左右するリスクと言われているのは、
- 細菌叢(口の中にいるS.ミュータンスなどのう蝕原因菌の数や種類)
- 食事性基質(細菌の栄養や、歯垢の原料となる砂糖や炭水化物)
- 宿主(生まれ持った歯の酸に対する強さ、歯並び、唾液、全身疾患、生活習慣)
と言われています。むし歯にならない人は、むし歯の病原菌が口の中にいても、これらのリスクがどれも少ないか、そもそも、むし歯の病原菌が口の中に存在しない可能性があります。逆に言えば、一度むし歯にになった人の口の中には、必ずむし歯の病原菌がいてむし歯が再発するリスクがあるということです。
どんなに頑張って歯を磨いて、食生活に気を付けていても、一度むし歯になったところがまたむし歯になってしまうという人はかなり多いのです。なぜなのでしょうか。
歯垢がとり切れていない
一度むし歯になった場所は、歯ブラシが届かず歯垢が残っていたせいでむし歯になっています。普段の習慣が改善できないと治した周りから、またむし歯になってしまうのは当然ですよね。どんなにうまく磨いても、歯ブラシだけでは、60%程度しか磨けないとも言われています。
かみ合わせの力で歯に負担がかかる
かなり技術が進歩した現在でも、本来の歯を完全に置き換える材料はいまだにありません。どんなに強い接着剤で歯と材料をくっつけたとしても、歯ぎしりやくいしばりなどの強い力がかかり続けていればいつかははがれてしまい、その細かい隙間を通してむし歯の病原菌が感染し、歯の内部にむし歯を再発します。また、歯を固い組織で守っている、エナメル質にひびが入ることでそこからむし歯が進行することがあります。特別かむ力が強くなくても歯並びの影響で、歯に負担がかかってしまうこともあるのです。
材料に合わせた適切な治療ができていない
これに関しては、私たち歯科医師の責任も多くあります。むし歯が進行してその範囲が大きくなればなるほど歯がうすく、もろくなり、歯の根っこがその上に乗る土台やかぶせ物を支えられなくなってしまい、最終的には噛み合わせの力で壊れてしまいます。骨の中までひびが入ってしまえば、歯槽膿漏からいつかは抜歯をしなくてはいけなくなるのです。これを防ぐためには適切な材料を用いて、適切な方法で、かみ合わせや細菌のストレスに耐えられるように治療を行う必要があります。しかし、むし歯が進みすぎていたり、時間や費用の問題で難しいこともあります。そして、何よりも恥ずかしい話ですが、私たち歯科医師がそういったことを説明しないで治療を進めてしまったりすることも、一つの原因ではないかと思っています。
どうすればよいの?
適切な材料と、治療方法で治療を行う
まず、むし歯にならないことです。これは本末転倒ではありますが一番大事なことです。また別の機会に書きましょう。一度むし歯になった歯を、再度むし歯にしないためには、むし歯が大きくならないうちに確実に除去し、適切な材料を用いて、確実な治療を行うことです。小さいむし歯のうちにできるだけ小さく削って、コンポジットレジンで詰めることもよいでしょう。最大の防御層であるエナメル質を治療のために削って失えば、むし歯再発のリスクはどんどんと高くなるからです。また、もう少し大きい範囲のむし歯であれば、ゴールドの部分的なかぶせ物をするのがおすすめです。かぶせ物の周りのむし歯の原因は、かぶせ物と歯の間にできるセメントの層が厚くなってしまうことが原因のひとつ。セメントで歯に装着した後に境界の部分を器具ですり合わせると、柔軟な金属が歯になじむことで限りなくセメントの隙間を狭くできるので、ゴールドのかぶせ物は銀歯よりも確実にむし歯になりにくいといわれています。むし歯と全く関係なく思えますが、歯の負担を和らげるためにかみ合わせの治療が必要になることもあるでしょう。当院では、どんな条件の歯でも必ず、むし歯を補う最適な材料と方法について説明を行うように徹底しています。
正しい生活習慣を身に着ける
まず、歯科医師や衛生士から正しい歯ブラシの仕方を習ってください。YouTubeでも歯ブラシの仕方は勉強できますが、ぜひ、個人の歯並びに合わせた歯ブラシの仕方をマンツーマンで指導させていただければと思います。また、歯ブラシだけでは歯垢を完全に取り除くことはできません。大人のむし歯は、歯と歯の間から進行することが多いですから、むし歯の再発を防ぐにはフロスや歯間ブラシも必要です。歯周病や口臭の予防にもなります。ぜひ、毎日フロス、歯間ブラシをする習慣を身に着けてください。また、極度のかみしめ、歯ぎしりはむし歯だけでなく、歯周病の原因にもなります。寝ているときだけでなく、起きているときも無意識のうちにかみしめてはいませんか?少し意識して、できるだけやめるようにしてください。習慣は毎日の積み重ねです。悪い習慣をよい習慣に変えてあげると、20年、30年たって大きく差がつくはずです。私たちが、生活習慣改善のためのパートナーになります。
メンテナンスに通う
そして、ぜひ、メンテナンスのために定期的な歯科受診をするようにしてください。たとえ、正しい歯ブラシとフロス、歯間ブラシの習慣を身に着けたとしても、どうしても取りきれない10%程度の磨き残しはプロフェッショナルケアが必要です。また、詰め物やかぶせ物周囲の歯のかけ、内側で進行するむし歯に関しては、専門家による視診、触診、レントゲン診査をおこない、時間の経過による変化を見ることが非常に重要になります。当院では、1~2年ごとにレントゲン撮影を行いむし歯が進行していないか確認をしています。
まとめ
結局のところ、一度むし歯になったところを、またむし歯にならないようにするには患者さんと私たちが手を取り合って、ひとつひとつ問題を解決していくことが必要なのです。かなり難しいのですが、決して不可能ではありません。私たちにぜひ、そのお手伝いをさせてください。それに、まだむし歯が少ない若い人にも良い習慣を身に着けて、予防治療を受けてほしいと切に思うのです。
八潮駅前通り歯科医院
飯野正義